インタビュー

正しいか間違ってるか、良いか悪いかで決めてしまわない。どっちに転んでもOK「やってみよう!」

プロコーチ 中村祥子

中村祥子
アスブライズ代表 ウェディングプランナー プロコーチ

和歌山の県立高校を卒業後、ツアーコンダクター、結婚・出産を経て、2000年よりホテルの営業部 婚礼担当として10年間勤務。退職後、2011年からはフリーに転身。長年の経験を活かしてウェディングのプランニングをする傍ら、ビジネスコーチングでも活躍中。実践コーチング塾にてプレサポーターとして参加。(取材日:2017年4月)

目次

コーチングと出会い、本来の自分の姿を見つける

「コーチング」との出会い、コーチングをやろうと決めたいきさつを教えてください。

6年前に10年勤めた会社を退職し、フリーランスウェディングプランナーとして独立しました。しかし、独立したものの仕事などあるはずもありません。

来ないお客様を待つストレスと、それに加え実父が肺がんに倒れ、その介護も加わり私の精神状態は極限だったと思います。自分でもこの状態ではまずい・・そう思い、インターネットで自己啓発的なサイトを探しては読んでいました。

その時に偶然にも「コーチング」という言葉を見つけ、何か自分が変われるのかなって思ったんだと思います。もともと学習欲の強い私はすぐに学びたい!と思いあれこれとスクールを探したのですがどのスクールも高額。ただでさえ仕事がなく蓄えも底をつきそうな状態の私に払えるはずもなく。

そんな半分あきらめかけた時に地元近くでコーチング講座を開催している女性がいることをインターネットでみつけました。しかもお手頃価格!本当に藁をもつかむ気持ちで電話したのを覚えています。

そして、初めての講座に出席しその女性と初対面。

いつも「中村さん」としか呼ばれていいなかった私のことを、本当に以前からの知り合いのように「よっちゃん」と呼んで明るい笑顔といいようのない安心感で私を迎えてくれました。何より衝撃的だったのがその女性が発した「私、頑張りたくない。頑張るのってしんどいやん」という言葉。

頑張らねばならない、まだまだ頑張らないとダメ、頑張らないと認めてもらえない。そう思い込んでいた私の脳みそに衝撃が走った瞬間でした。

そしてその時、ふっと体全体から力が抜けていくのを感じました。素直に「あー、もう頑張らなくていいのだ」と。

有償クライアントを獲得しようと思った…、つまり「プロ」になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

「頑張ること」を手放してから、少しずつ私が変わりはじめました。

実践コーチング塾に参加し、けんさんや仲間との出会いもあり、時間を重ねるごとに自分が変わっていく…、苦しみながらでもどんどんと玉ねぎの皮をむくように本来の自分の姿を探し出せました。

まったく自分に100点を出せなかった私が、よく頑張った、100点満点!と自分を認めた時に感じたあの解放感と安堵感は忘れることができません。

そういう方って結構多いと思います。「なんでこんなにしんどいの」と思いながらも、その苦しさもあたりまえのように自分の一部として扱っている人も。

私だけではなく、みんなにも楽しく、楽に生きて欲しいし、好きなことをやって欲しい。人はもっと幸せに生きられる。気づいてほしい、この世は素晴らしいことで溢れていること。

その願いがプロコーチになろう!と私を突き動かしたのだと思います。

「聴く」ことがクライアントとの信頼関係を築く

中村さんの場合は、とある会社さんにこだわって営業活動をされたそうですね。その営業シーンで、難しかったことは何だったのでしょうか。

私の場合は、以前働いていた会社でお役に立ちたいという強い思いがありました。退職する時も決して仕事が嫌いでとかではなかったので、もう一度あの会社で、違う形、コーチングで貢献したいっていう、たぶん人一倍愛社精神があったんだと思います。

そんな中、コーチングってなんだね?と言われ、まずコーチングというものを理解して頂くことが難しかったです。あと、それに対する対価。目にみえないものだからこそ価格を提示するときには勇気がいりました。

「コーチング」はどうやって理解していただいたのですか。

コーチングを体験していただきました。
本当に今困っていることをまず聴いて、それに「どうしたらいいと思いますか?」って形でこちらが聴いて質問するというのを繰り返していったんですね。

で、どうなりたいということも、それこそGROWモデルに沿って「こういうこと、こういうこと、こういうことですね。じゃあ、こういうことをしはったらいかがですか?」とか「他にこういう考えもありますよね?」とか。それを私が提案する形で「こういう考えも、ああいう考えもありますよね」という形で、体験していただきました。

単価を提示する際は、何か工夫などをされたのでしょうか?

私の場合は、事前に一般的なコーチングの単価を知らなかったので…けんさんに「これくらいだよ」って教えてもらいました。最初は正直、「高っ!」って思いました。「え、それ私言うの?」みたいな。(笑)

とはいえ、とりあえずそれでいこうと。「下げることはしないでおこう」「いろんなところでコーチの方が頑張っている中で、私が下げてはきっと失礼だな」と思ったので。「コーチの金額はこれです」って提示しました。提示の際に、単価の説明は特にしませんでした。

失敗できないという緊張の連続だったと思いますが、その中で「大切にしたこと」は何だったのでしょうか。

「傾聴」です。

コーチングってこんなに素晴らしい!ということを話したい気持ちをグッと押さえて、まずはクライアントが何に困り、どうしたいのかをひたすら聴きました。聴くことで問題の本質がわかり、クライアントとの信頼関係も築けます。それから私ができることを話すようにしました。

やはり話を聴き切らないと、「この人こうして欲しいだろうな」というのを、私の価値観や思い込みで決めてしまうと、その方が何を求めているのか、何を私に言いたいのか、何をして欲しいのかの的が外れると思うんですね。

そこは、パーソナルコーチングをするときでも、ビジネスコーチングをするときでも、必ずその人の問題の「本質」をキチンと捉えるためには、時間がかかっても『傾聴』が必要だと思ってるんですね。自分と相手がキチンと合致できるように。

あとは「諦めないこと」。
私はその会社にこだわり続けました。何度もスルーされ、時間もかかりましたが、諦めることなく何度もチャレンジしてようやく獲得することができました。粘り勝ちです。

「何度もスルーされ、時間もかかりましたが」というお話ですが、その中で「うまくできたこと」は何だったのでしょうか。

うまくできたこと…。う~ん、うまくできたこと…うまくできたこと…。出てこないです……。

今お話しを聴かせていただいている中では「何度も諦めそうになったけれども、諦めなかった」というところになるのでしょうか。

あ、そうですね。性格でしょうか。諦めるのがすごい嫌なんです。一回自分がこうだと決めちゃうと、「こうだったから」「ああだったから」などと言い訳を言いながら諦めるのが嫌なんです。

担当の方とお会いした際に、伝えたい気持ちを抑えて「聴く」ことに徹することができた、そのご自身のコントロールがすごいなと思いました。

私の場合は、この会社のお役に立ちたいという強い気持ちがあったんです。しかし状況としては、担当の方にお会いした瞬間にもう、無理だなって思ったんです。

「とりあえず、話だけは…」みたいな感じで会ってはくださったのですが、当初私のことは完全否定だったんだと思うんですよ。「君の力なんて必要ないよ」「辞めた人間になんか頼らないよ」っていうのが、顔の表情、非言語ですよね。だったり言葉尻からヒシヒシと伝わってきたんですね。

これは私から色々と言ってしまったら墓穴掘るなと思ったんで、「どうしたらいいんだろう」って考えたときに、「聴こう」と思って。

話を聴いて、中盤くらいになるとその担当の課長がいろんな話をしてくださったんですね。本当に気持ち良く「ああでね、こうでね、こうだったんだよ」って。で最後に「君、いつから来れる?」っていう話をしてくださったので、「よっしゃ!」とか思いながら。(笑)

私がその時、課長の話をしっかりと聴いたことによって、その後も何かつまずいたり、考えることがあったら私のところに来て、よく話をしてくださいました。「中村さん、こうなんだよねぇ~。君どう思う?」とか「君だったらどうする?」とか、他のスタッフたちには見せない顔を私には見せてくださいました。

経験ある業界でのコーチングにおけるメリットデメリット

長くご経験のある業界に、コーチングという仕事で入ることになったわけですね。「活かせた自分の強み」はありましたか。

ブライダル営業職の経験ですね。
ブライダルって、形のないモノを売るわけです。思い出や抽象的なモノを言葉にして、売って、お金をいただくという点ではコーチングも同じかなと思います。

「どうなりたい?」とお聴きして、「こうなりたいんです」というお話になれば、「なったら嬉しいよね~」「じゃあ、その時はどんな感じ?」とか「どういう服着て行く?」とかリアルに想像していただいたりして。

あとは、以前の私を知る人がいる会社でしたので、コーチングに触れることで私はこんなに変わった、ということを実際に知ってもうらことができたこと。課長にも「周りから聞いてた中村さんのイメージと全然違う」って言われました(笑)。

「なんか雰囲気変わったね」とか「言うこと変わったね」って言われた時に「実はね、こういう時に、こういう形で考えるんよ」とお話をさせていただくと、その方も「へー、そうなんだ」って興味を持ってくださるんですよ。

失敗談があればお聴かせください。

やっぱり知ってる業界だったので、自分の価値観で「こうやればいいのに」っていうのがあるじゃないですか。「こうしたらこうなる」「こっちが近道だよ」というのが、知ってる業界だからこそシミュレーションができるわけですよね。

コーチングで「早く結果を出さなければ」「数字を上げなければ」という使命感に追われて、最初は聴いていたつもりだったんですけど、「もうこれでいいだろう」と自分で勝手にラインをつけちゃったんですね。

プロコーチ 中村祥子

そうすると、私の価値観で押し進めたくなるわけですね。でもやはりラポールが築けていないので、進まない。「中村さんの言っていることがわからない」「考えなさいっていうばかりで何も教えてくれない」と言われる…。

そして焦っていた私は課長に、「数字が上がらないとダメですよね?」と面と向かって聞いたんです。すると課長は「君に数字を求めていないよ」って言われたんです。その時に、ハッとしました。私が勝手に「私が数字を上げなければ!」って思い込んでいたんだと。

気づかれた後はまず何をされたのでしょうか。やっぱり、聴くことですか?

まずはやり直しだと思って、まず聴くことよりも、常に一緒にいる時間を大事にして、「さぁ、コーチングします。座ってください」ではなくて、常に一緒に仕事をしている中で、見守っている中で、「最近、どう?」とか「どう思ってる?」とか「君、どうしたい?」など、自然なコーチングをするようにはしましたね。「何かあったら声かけてね」とかいう形で。

今はコーチングというか、「彼らのパフォーマンスを上げることに集中しよう。数字は彼らが上げる。私じゃない」っていう感じですね。

クライアントの方々に、何か変化はあったのでしょうか。

本当に緩やかに。ガンッとは変わりませんけど、少しずつ、少しずつ目の輝きとか、顔の輝きとか、表情とかが変わってきたので、よかったかなとは思ってます。

一番嬉しかったのは「中村さん、今度いつくるんですか?」って言われた時でした。他にも他愛のない、一緒にご飯を食べてる時とか、コーヒーを飲んでるときでも、「ねぇねぇ、中村さん、あのね…」ってプライベートなお話までしていただいたりした時に「あ、この人私のことを信頼してくれてそこまで話をしてくれるんやな」っていうのはすごく感じましたね。

「怖さ」を乗り越えるために、怖さと向き合う

有償クライアントを獲得するに至るために、必要だったものを3つ挙げるとすれば何でしょうか?

  • 粘り強さ
  • 「できる」ふり
  • 勇気

「粘り強さ」というのはどういったことでしょうか。

お話を聞いていただけるまでに、ものすごく時間がかかりました。何人かの方に取り次いでもらっても、全然仕事に結びつかなかったんですね。

「もう無理かなぁ」って諦めかけたんですが、直接支社にお話しを持って行ってみようと考えました。お会いしたことがない方々だったので、まだその会社に勤めている元同僚にも口添えをしてもらったのもあって、なんとか会わせていただくことができました。

それからは先ほどもお話ししたように、先方さんはすごく構えてらっしゃって…。これは厳しいと思いましたが、それでもやっぱり「ここで諦めたらあかへんわ」と思って。とにかく諦めないことですよね。

「できる振り」「勇気」とは?

ベテランの振り。(笑)熟練の振り。(笑)

まだまだなんですよ!本当にまだまだなんですけど、“できてる”を装うことによって、相手にも安心していただけるじゃないですか。「この人に任せても大丈夫」とか「あ~、この人だったら頑張ってくれはるな」という安心感を感じていただくために、「できる振りをする」。

あとは「勇気」。
「勇気」はこの3つの中でも一番大事だと思います。やっぱり怖いんですよ。

また断れたらどうしょう、「しつこいわ」って思われたらどうしょう、へんな宗教にハマってんちがうって思われたらどうしょう、はたまた反対に契約するって言われたらどうしょう、とか心の中が矛盾だらけ。

契約するのも、しないのも、どっちの結果でも「怖い」んです。その「恐怖」とそれを乗り越えろ!という「勇気」との葛藤でした。

怖さはどう克服してこられたのですか。

怖さは常に感じていました。人に会うたびに怖かったです。電話一本するにも何日もかかりました。携帯を出してきては、眺めながら。(笑)「忙しいかもしれへんし」とか言いながら、「今日は無理」って。(笑)

今でも怖いですよ。毎日毎日。
成績が上がらない怖さもありますし、年度末になると契約が切られるかもしれないという怖さももちろんあります。なので克服はしていないと思います。

どんな場面においても「恐怖」って常につきまとってくると思います。無くなるものではないのかなと。なので自分の中で折り合いをつけていくというか。

怖いと感じているときって、二極端なんです。「正しい」「間違っている」、「良いこと」「悪いこと」。これをどうしても自分の思う方向、「正しい」「良いこと」に持っていきたいと思うからこそ、「間違っている」「悪いこと」を想像して「怖さ」が生まれてくると思うんですね。

まず自分が怖いと思っていることを「NO!」とせずに認めてあげる。「怖い。当然やんか!」と。

「怖いね、怖いね」って自分の声を聴いてあげながら、「なんで怖いのかな?」「どういうことが怖いのかな?」とか、「どうなったら怖いのかな?」とか。「その仕事を断られることが怖いのかな?」「もっと違う部分のことが怖いのかな?」っていうのを、自分の中で細分化してあげる。

その目先だけの「ダメだった」「間違っていた」っていうことだけに目を向けるんではなくて、そうだったからこそ、「こうなったよね」「出会う人も違ってきたよね」「考え方もこうなったよね」っていう風に、どっちに転んでも私にとって必要なことなんだと思えるようにしてます。

正しいか間違ってるか、良いか悪いかで決めてしまうと、本当に苦しくなってくると思うんですね。「良いと思っていること、これ自体が私の思い込みかもしれないなぁ。とりあえず、どっちに転んでもOK、やってみよう!」と。どっちもアリということですね。

「継続するために」工夫されていること、大事だなと思われることなどをお聴かせください。

継続は、あまり意識してないですね。
必要とされなければ、それはそれで終わってしまいますし、それもまぁ自分のやってきたことで結果を残せなかったという事実でしかないので、仕方ないですよね。

ただ契約期間内フルパワー。それはもう本当に思っています。

自分もクライアントも大切に扱い、信じて寄り添うこと

プロコーチであり続けるために日頃大切にしていること

私自身が幸せであり続けること。今、私の手の中にある小さな幸せに気づき、それを大切に思うこと。

すべては必然で、どんなことも私に必要なことなのだと受け入れること。ネガティブな感情をも自分の一部なのだと認め、労わること。

ご飯の時に娘と「今日の楽しかったこと3つ」を話したりします。「君とご飯を食べてることが幸せだよ」とか、「今日、桜咲いてるの見つけたよ」とか、そういう小さなことを話しながら、それで気づくじゃないですか。「ああ、そういうこともあったね」「ああ、こういうこともあったね」とか。きっと悲しいこととか、辛いこともあるだろうけども、「幸せ」の方をちょっと意識して実感するってことですね。

あとは、「ネガティブ」を「悪い」とか「ダメなこと」とか決めてしまうからこそ、人っておかしくなってくると思うんですね。あって当然だと思うんですよ、ネガティブな感情って。ポジティブシンキングって色々言いますけど、でもネガティブな部分を持ってて当然。「思っていいよ」って思うようにしていますね。

では最後に、今後どんなプロコーチになっていきたいと考えていますか?

クライアントは望む結果を手に入れられる人だと信じ、変化に伴う痛みや苦しみを乗り越えられる人だと信じ、その先の幸せに満ちた将来を信じて関わっていけるコーチでありたいです。

プロコーチ 中村祥子

いろんなお話をする中で、「できない」とか「なぜこういう風に思うんだろう」ということは、その方が今まで何十年と生きてきた間に培ったものだと思うんですね。それを見つけて、触るってことは、その方の人生を触っていくことだと思うんですよ。

それを軽はずみに扱うんではなくて、きちんと自分も覚悟を持って、聴いたからにはきちんと寄り添う、聴いたからには最後まで寄り添う、その人が明るい未来へ向えるようにきちんと自分の中で解決できるまで寄り添ってあげるっていう『覚悟』はやっぱり必要かなと思います。

結局は『信じる』ことだと思うんですね。「この人は自分で解決ができる人だ」と信じて関わる。自分に言い聞かせる部分もありますけど、「大丈夫。この人は必ず乗り越えられる」って自分が信じる。そして『信じた自分を信じる』ですね。

お時間をいただきありがとうございました。

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