コーチングとの出会い、初めてのクライアント体験(森謙吾プロフィール12)
「広告代理業をやる」と決めると早速仕事が取れるのです。
中堅、大手企業の制作物の場合、ほとんどが他の広告代理店やデザイン会社数社でのコンペティション、つまりデザインのオーディションになるのですが、これまで何十回ものコンペティションをしましたが、うちが負けたのは1度しかありませんでした。
コンペ相手はほとんどが広告代理店か大きなデザイン事務所で、どこもチームを組んでヒアリングからプレゼンまでしますが、私は当然いつも一人でした。この状況は不利に感じるどころか、闘争心が湧き、ワクワクするものでした。毎回、負ける気もまったくしませんでした。
この異常に高い勝率は提示するデザインクオリティーではなく、事前オリエンテーションでのヒアリングクオリティーによるものです。私はこのオリエンテーションでほぼ受注は決定していると思っています。
これはコーチングにもつながるのですが、デザインを依頼するお客様はデザインに関しては素人の方がほとんどです。そのお客様がデザイナーやディレクター、もしくは広告代理店やデザイン会社の営業マンに作りたいもののイメージを言葉にして表現するのはお上手ではありません。
その言葉にならない想いやイメージを言語化や時にはその場で図式化してあげることで、そのお客様の潜在化していた漠然としたイメージが明確に顕在化してくるのです。
これには、ヒアリング能力と問いかけ力、そしてお客様の納得度や感情を表す非言語を的確に捉える力が必要です。このオリエンテーションが終わった時には、お客様はデザインもまだ見ていないこの段階で「できればこの森さんのところでやりたいなぁ」という欲求が出てきています。これも営業マン時代に培った、目の前のお客様を大好きになることが叶えてくれていたと思います。
ちなみにこの唯一の1敗は、大手ガス会社と大手電鉄会社との共同企画の季刊誌の大きなコンペティションで、この時、うち以外は大手広告代理店2社と中堅広告代理店1社。
いつもは1社1社が個別でオリエンテーションおよびプレゼンを行うのですが、このコンペティションは大きな会議室での合同プレゼンテーションでした。我々プレゼン側4社は横1列に座り、対面にはクライアント企業の役員さんたちが10名くらい並んで、マイクを使ってのプレゼンです。
ここで最初のプレゼンは私からだったのですが、ここで「例の苦手」が顔を出してしまったのです。マイクを持つ手と声が震え、あえなく撃沈しました。
その後、大手食品会社の印刷物一式や全国展開する専門学校の生徒募集パンフレットなど、受注しました。専門学校さんもコンペティションでの受注で、年間1000万円を超えるものだったのですがそれでも、その利益では毎月の経費と返済はまかなえず、仕事を取ってきては、その外注先へ支払いをする際に「デザイナーや印刷会社のために仕事を取ってきてるなぁ…」と思うようになってきました。
そんな中、デザイナーの使うApple社のMacintoshの廉価版のシリーズが発売されたのです。私はデザインも自分でできれば利益は大きくなると考え、触ったこともないMacintoshを購入しました。
Macintoshを購入し、IllustratorとPhotoshopをインストールしたものの、何をどうすればデザインができるのかわかりません。まずは本屋でIllustratorの使い方の本を買い、本の通り操作をしてみましたがよくわかりません。で、私が出した結論はまずは手頃なデザイン仕事を取ってきて、自分を納期のある逃げられない状況に追い込めば何とかするだろうというものでした。
早速、ある会社から顧客集客のためのダイレクトメールを受注し、自らやらざるを得ない状況を作りました。結果、何とか作り上げ、納品。お客様には大変喜んでいただき、またその集客結果も今までで一番良かったとのことでした。その成果はともかく、何よりこの仕事で大方のMacintoshの使い方、入稿の仕方をマスターしました。
それから、仕事を取ってきてはデザインをしました。しかし、デザイナーとして活動してから仕事量が減ったのです。
その理由は大きくふたつ。
ひとつはデザイン作業に時間を取られ、社外の人と会う時間、つまり営業活動の時間が減っていること。そしてこれより大きなふたつ目の理由は、デザインという未知の領域に美大や芸大を出ていない、先日まで営業マンだった自分に引け目、気後れがあり、またそのデザインにも自信を持てる根拠がなかったのです。
自信を持てる商品・サービスだからこそ私の営業力は発揮できたのですが、この自分のデザインにそこまで自信を持てないことは私の営業力を大幅に低下させました。自分がデザインする分、当然粗利率は高くなったのですが、それ以上に仕事量が減り苦しい状況に変わりがない状況でした。
しかし、私はまた、もうこれ以外選択肢はない、四面楚歌だと思い、その苦しい状況を続けること以外できませんでした。
そんなある日、下村さんから電話があり、うちの会社に顔を出していただきました。風の噂で、下村さんはその後会社を辞められたことは聞いていました。
お互いの近況報告をする中で、「下村さんは今何をされているんですか?」に対して、「コーチングというものを始めようと思っている」と。そしてそのコーチングとはどういうものかもご説明いただき、「けんの営業はコーチング的だよね。すごく向いてると思うんやけど、一緒にやらないか?」と言っていただきました。
私は自分の会社もあるし、社員もいるので遠慮したのですが、下村さんにお誘いのお言葉をかけてもらったことと、私の営業スタイルをちゃんと見ていてくれていたことへの喜びが大きかったです。
続けて下村さんが「僕もコーチングを始めたばかりやから、練習台としてクライアントになってくれないか?」と言っていただき、コーチングが何たるや理解していないながらも喜んでお受けさせてもらいました。
それから程なくして、週1回の電話でのコーチングクライアント体験が始まりました。
その下村さんのコーチングは私にはすごく刺激的なものでした。毎回コミット高くWILLを出し、翌週には下村さんにさらに喜んでもらいたい、誉めてもらいたいの欲から、出したWILL以上の成果を毎回報告できるようにしていました。毎週、セッション日が楽しみになっていました。当然その分、週単位で前進していきます。
合わせて、今まで考えもしなかったことを口にし、行動に移す自分に驚きながら、「コーチングってすごいなぁ!」とコーチングの素晴らしさを痛感していました。
これが私とコーチングの初めての出会いでした。
毎週のコーチングを楽しみにしながらも、日々のデザイン仕事は続きました。

